東京地方裁判所 昭和45年(ワ)3113号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、本件事故発生地点は、南北に通じる、歩車道の区別のまつたくない、幅員約七米のコンクリート舗装部分と、その両側に約0.6米程度の非舗装部分そしてその各外側にガードレールが設けられてなり立つている道路(以下南北道路という)と、東西に通じる歩車道の区別のない幅員約4.5米の砂利道(以下東西道路という)とがほぼ直角に交差して形成された交差点付近にある。また右南北道路は、北方よりほぼ直線で交差点に至つた後、交差点より南方は若干西寄りにカーブを描く形となつており、さらに現場付近の道路脇は雑草が繁茂しているため、交差点の見とおしは良好でない。
訴外熊谷は加害車を運転し、時速約五五粁で南北道路を南進し、交差点手前約二八米の地点に至つたのであるが、その際自車前左前方に、非舗装の東西道路を西進して来て、交差点内の非舗装部分より舗装部分にまさに進入せんとしている被害車を認めた。この時、訴外熊谷は道路脇の雑草と土盛りのため、亡与蔵の上半身と被害車の前輪を視界におさめえたにすぎず、亡与蔵において停車措置をとつたか否かは確認しえなかつたのに、また自車は交差点と前記のとおりかなりの距離を置いており、しかも、被害車としては加害車進行車線にまず進入することになるわけであるから、右交差点を東西に直進する車としては、加害車が交差点に至る迄に少なくとも加害車進行車線は横断し切れるものと判断し、あるいはまた加害車において、先に交差点内に進入した自車に進路を譲るものと判断し、なんら停止措置をとらず進行してくることが充分予測しうる事態であつたにかかわらず、訴外熊谷は被害車は停止するものと思い込み、右発見時直ちに停車措置をとるなどの所為に及ばず、たんに、アクセルの踏み込みを若干もどし、速度を心持ち落す程度の処置をしただけで、なお約九米前進したところ、被害車は、なんら停止措置をとらず通例の自転車の速度より若干おそい段階の速度で、交差点内舗装部分を約一米西進してきてきていることを、両車相互距離約二〇米で発見し、始めて衝突の危険を感じ、急遽停車措置をとつたが、両車が接近していたことと、被害車から少しでも離れようとハンドルを右に切り対向車線上に進出する措置をとつたことがかえつて逆効果となり、同じように加害車を避けようとしてハンドルを左に切りつつ、加害車進行車線を南西方向に横切り、対向車線上に迄至つていた被害車と衝突するに至つている。他方亡与蔵は東西道路を西進して来て本件交差点に至つたのであるが、自車進路と交差する道路の幅員は前記のとおり明らかに広く、しかも、右南北道路を進行する加害車が交差点手前約二八米の地点に至つているのに、加害車の前方を横断し切れるものと誤り判断し、停車等の措置をとることなく、交差点内に約一米進入して後、予測に反し加害車が自車の右方約二〇米の地点に早くも至つているのを発見して、危険を感じ、ハンドルを左に切つて衝突を避けようとしたが、及ばず本件事故に至つている(本件事故が、亡与蔵において、事故発生地で被害車に乗つて道路横断中、訴外熊谷運転の加害車に衝突されたものであることは、当事者間に争いない)。
<中略>
右認定事実によると、加害車を運転していた訴外熊谷は、本件事故につき、自動車運転手として遵守すべき前方注視・安全運転義務に従つて、加害車が交差点手前約二八米のところで、被害車は既に交差点に至つている状態になつていたのであるから、被害車側では、加害車が交差点に到達する迄に少なくとも加害車進行車線を横断しうるもの、あるいは加害車が停止・徐行して交差点に先入する被害車に対して、進路を譲るものと考え、交差点に進入してくることあるにそなえ被害車の動静に注意を払い、被害車が確実に自車前方を横切りうる場合か、被害車において停止措置をとり、衝突の危険がなくなつている場合に、始めて進行が許されることになるわけであるのに、訴外熊谷はこれに従わず、広路を進行する加害車に対し、被害車は停車して進路を譲るものと思い込み、被害車を発見し、しかも、それが、停止処置をとつたことがなんら確認されていないのに、直ちにこれに対応する徐行・停車等の措置をなんらとらず、前進を続け、もはや有効な停車措置をとりえない距離に至つて、被害車が交差点に進入してくるのを見出し、急制動を施すも、被害車進路手前で停止することもできず、また、衝突を避けようとハンドルを右に切り、対向車線に出たこともかえつて悪く、対向車線で被害車と衝突するに至つているものと認められる。
そうすると加害車を所有し、これをその業務の用に供していることを争わない被告二又は、運転手たる訴外熊谷に前記のとおり過失が認められる以上、免責される余地なく、本件事故につき運行供用者として損害賠償責任を負わなくてはならない。
しかし他方前記認定事実によると、被害者である訴外亡与蔵も、本件事故発生について自転車を操縦する者として遵守すべき義務に従い、加害車は自車進路より明らかに広い道路を進行してくるのであり、従つて、交差点に差掛つたからといつて常に徐行する迄の必要はなく、かなりの速度で進行してくることが予測されるのであるから、これに対し充分な注意を払い、自車が加害車において、交差点手前二八米のところで交差点に進入することとなり、よつて交差点に加害車が至る迄に、少なくとも被害車は加害車進行車線を通過しうることが充分の可能性をもつて判断でき、被害車が先入車となるとはいつても、自車の交差点内全域の先通過が確実に断定できるか、加害車が自車に進路を譲ることが確認できて、始めて進行すべきところを、これが処置に及ばず、交差点内へ進入する過失を犯していること、および右過失が本件事故発生に寄与していることが認められる。
そして本件事故における被害者の右過失を斟酌すると、被告二又は原告らが本件事故により蒙つた相当の損害額のうち七〇%に当る金員を賠償すべきものと判断される。<中略>
二、そうすると、被告二又は、原告らの本訴における各請求に対し、原告ハルに対し金六八万七、七二〇円、原告正平に対し金四六万三、〇三七円、その余の原告らに対し各金三九万四、六七九円ずつ、並びにこれに対するいずれも一件記録上本訴訴状が被告に送達された翌日であること明らかな昭和四五年四月九日より各完済迄年五分の割合による民事遅延損害金の、被告安田も、原告らの本訴における各請求に対し、同じく原告ハルに対し金六八万七、七二〇円、原告正平に対し金四六万三、〇三七円、その余の原告らに対し各金三九万四、六七九円ずつ、並びに債権者たる原告らの有する債権の元本および完済時迄の遅延損害の範囲において、債権者代位権は行使されるべきものである(最判昭和四四年六月二四日参照)から右各金員に対するいずれも本判決言渡の翌日である昭和四六年一一月二六日より年五分の割合で昭和四五年四月九日より請求する民事遅延損害金と年六分の割合により昭和四六年一一月二六日より請求する商事遅延損害金とが、同額となる昭和五五年一月二三日迄は年六分の割合による商事遅延損害金の同月二二日より各完済迄年五分の割合による民事遅延損害金の支払をなさなければならないことになる。 (谷川克)